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大ヒット漫画『ゴールデンカムイ』監修者が「アイヌ文化」を徹底解説(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース

そもそも「カムイ」とは何か?

 2018年「手塚治虫文化賞」でマンガ大賞を獲得した、累計発行部数1200万部を超える大人気冒険活劇漫画「ゴールデンカムイ」。私はこの作品において、アイヌ語監修を務めています。

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 アイヌ文化を巧みに紹介していることで評判の「ゴールデンカムイ」ですが、そもそもこのタイトルにもなっている「カムイ」という言葉が何を指しているのか、よくわからないという方も多いのではないでしょうか。そこで、漫画の絵も引用しながら簡単に説明してみたいと思います。

 カムイはアイヌの精神世界を知る上で不可欠の言葉で、これがわからないとアイヌ文化は何もわからないと言っても過言ではありません。よく「神」と訳されますが、「カミ」と「カムイ」はたしかにとてもよく似ています。カムイはもともと語源的にも日本語の「神」と同じ言葉だと思われますし、日々お祈りを捧げる存在だと言えば、カムイ=「神」、よしわかった、ということになりそうです。

 しかし、ちょっと待ってください。アイヌの伝統的な考え方では、表を歩いている犬や猫、庭にやってくるスズメやカラスはみなカムイです。神様のお使いなどということではなくて、その一匹一匹がみんなカムイなのです。

 そればかりではありません。道端に立っている木も、その下に生えている草も、その間を飛び回っている虫たちも、基本的にはみんなカムイです。それどころか、家や舟や、鍋や茶椀(ちゃわん)などの食器類――つまり人間の作ったものもカムイですし、ガスコンロの火もカムイです。

 火がカムイというのは、火を司る神様がいて、それが人間に火をもたらしたという意味ではありません。そこで燃えている炎自体がカムイなのです。「ゴールデンカムイ」2巻12話では、アイヌの少女アシㇼパがこのことを主人公の杉元に説明しています。

 カムイというのは、このように人間をとりまいているほぼすべてのものを指しています。こうした考え方を持っている人たちからすれば、テレビやパソコン、冷蔵庫や車などもカムイだということになるでしょう。こうなってくると、カムイを「神」と訳すのは、ちょっと待ったということになりそうですね。

 「自然」と訳してもよさそうな気もしますが、家や舟、臼や杵、鍋や小刀といった人工物もまたカムイであり、人間のまわりにあって、人間が生きるために何らかの関わりを持っているすべてのものを指しますので、「自然」でもやはりぴったりきません。むしろ「環境」と言ってしまったほうがよさそうです。

 アイヌとは「人間」を指す言葉ですが、アイヌの伝統的な考え方の根幹にあるのは、アイヌとカムイが良い関係を結ぶことによって、お互いに幸福な生活が保たれるということです。カムイを「環境」に置き換えると、「人間」が自分をとりまく「環境」と良い関係を保てれば世界がうまくいくということで、私たちにとっても大変納得のいく考え方ですね。

 アイヌは世界を理解するのに、いわばあらゆるものを「擬人化」してきました。カムイは私たちの目からはクマやらカラスやら炎やらに見えていますが、それは彼らが人間の目に見えるようにまとっている「衣装」だと考えられています。

 カムイたちは本来はカムイモシㇼ「カムイの世界」というところにおり、そこでは人間と同じ姿をして暮らしている、すなわち、クマもカラスも火も木も草も、みな人間の姿で食事をしたり結婚したり、彫刻したり裁縫したりして生活しているということになっています。

 ただし、それは霊魂の状態であり、人間の目には見えません。彼らが人間と関わりを持つためにアイヌモシㇼ「人間の世界」にやってくる時には、人間の目に見えるように衣装を身につけてきます。

 火のカムイであれば、六枚の赤い着物を帯で結び、さらに六枚の赤い着物を上に羽織ってやってきます。私たちの目に見えるのはその一二枚の赤い着物であり、それが炎だということになるのです。

 彼らの身につけてくるものはまた、人間へのお土産でもあります。火は人間に光と熱をもたらしますし、クマのカムイは毛皮と肉を、樹木のカムイは樹皮や木材を、山菜のカムイたちはもちろん食糧や薬を人間たちにお土産として持ってきてくれます。

 それらは人間が自分の手で作り出すことは不可能であり、カムイたちに持ってきてもらわなければ手に入りません。人間はそのお返しとして、カムイに感謝の言葉を述べ、お酒や米の団子といった、人間の手を経なければこの世に存在しないものを、カムイに贈り物として捧げるのです。

 いわば人間とカムイ(=環境)はお互いがお互いを必要とするパートナーなのだということです。人間は何もない空間で生きることはできず、環境からの恩恵によって生きています。そしてそれを当たり前のものと思わず、その恩恵を感謝して受け取ることによって、環境を悪化させないように配慮することができるようになります。

 たとえば、獲った獲物の肉を食べ残すようなことは、強くいましめられていました。それはカムイからもらったお土産を粗末にするということであり、それを知ったカムイに「そんなことをするのなら、もうあそこの家に土産を持っていくものか」と思われると、動物たちが姿を見せなくなり、飢饉(ききん)という最も恐ろしい災厄がもたらされるからです。だから、必要以上に動物を殺すことや、樹木や山菜を採りつくすようなことは、自然に控えられたわけです。

 これは簡単に現代社会の抱えている問題に行きつきますね。過度の森林伐採によって土砂災害が起こったり、大量の食糧が食べ残されて捨てられている一方で、多くの人が飢えていたりする現実。これはアイヌ的な考え方から言ったら、カムイとの関係がうまくいっていないということに他なりません。

 カント オㇿワ ヤク サㇰ ノ アランケㇷ゚ シネㇷ゚ カ イサㇺ
(天から役目なしに降ろされた物はひとつもない)

 この言葉は、「ゴールデンカムイ」コミックスの表紙カバーの袖のところに毎巻書いてあるものです。アイヌ民族出身で初めて国会議員を務めた萱野茂(かやのしげる)さん(1926~2006年)の愛用していた言葉で、アイヌの世界観をよく表しています。

 先ほど述べたようにカムイが霊魂の姿で暮らしているカムイモシㇼは、空を飛ぶ鳥や雷などのカムイでは天空にあり、魚やシャチなどの海に住むものでは水平線のかなたにあり、クマやキツネなどの山に暮らすものでは人間が足を踏み入れないような山奥にあると考えられています。

 そして、「ゴールデンカムイ」の取材協力者であり、樺太アイヌのアイヌ文化研究者である北原モコットゥナㇱさんによると、山や海のカムイもそこからさらに天界に行くことになっているのだそうです。つまりすべてのカムイは、おおもとをたどればカント「天」からやってくるのだということです。

 また、「役目なしに降ろされた物はない」というのは、カムイというものはすべて理由があってわざわざこの世界にやってきているのだという考え方です。そのひとつは先ほど述べたように、お互いが自分の持っているものを与えて、お返しに相手から自分では作れないものを手に入れるという、いわば「交易」のためということであり、もうひとつはカムイモシㇼから何らかの使命を帯びてやってくるということです。

 たとえば火のカムイは人間に光と熱を与え、食材を人間が食べられるように調理してくれます。また家の真ん中にある囲炉裏(いろり)に座って、家の守り神とともにそれぞれの家を守っており、クマなどのカムイがその家を訪れた時(つまり獲物として狩られて、その頭が家の中に運び込まれた時)には、その家のホスト役として客のカムイの応対をして、話を交わします。

 さらに人間がカムイたちに祈りを捧げる時には、その仲立ちをして、「これから人間がこれこれこういうお願いをするから聞いてやってくれ」というような、いわば根回しをしてくれます。そのようないろいろな役目を果たすために、火のカムイは、新しく家が建てられる時にカムイの世界からその家に招かれるのです。

 あるいはシマフクロウという鳥は羽を広げると全長二メートルにもなる、日本最大のフクロウですが、コタンコㇿカムイ「村を守るカムイ」と呼ばれ、村に厄災が及ばないように監視する役目を負って、天界から村の近くの森に降り、その大きな目で夜中じゅう村を見守っているのだとされます。

 このようにこの世界にやってきているすべてのものは、何かの理由があってそうしているのですから、むやみに邪魔者扱いしてはいけません。バッタのような日本社会では害虫と思われているものでも、実は村を見守るカムイであり、それをひとりの娘が杵(きね)でたたき潰そうとしたおかげで、バッタたちは怒ってよそへ移ってしまい、そのためにその村は人が絶えてしまったというような物語もあります。

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