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『VALORANT』はFPSにおける古典の新装版:伝統的な「爆弾解除」というルールセットはなぜおもしろいのか? - IGN JAPAN

6月頭にリリースされた『VALORANT』の印象をひとことで言えば、「温故知新」になる。筆者はeスポーツの分野ではかなりの老人なので、この作品――というか、ルールセット――は、じつはすでにプレイしたことがあるのだ。とはいえ、その旧知の感覚は作品の価値をいくらも減ずるものではないし、はじめてこの形式に触れるプレイヤーにとっては、新鮮な驚きとなるにちがいない。

ただ、はじめてこの形式に触れるプレイヤーには、そのおもしろさの根本的なところがすこし見つかりにくいのではないかと感じた(杞憂かもしれないが)。たとえて言えば、これは作家の生誕何年を記念して、キャッチーな表紙に新装した古典みたいなものなのだ。そこで筆者は、この作品のルールと、考えうる戦略のひとつをあらためて解説することにした。本稿をご覧になることで、かわいい顔をしてはいるがその実は往年の老舗であるこの作品から、プレイヤーが楽しみを引き出す助けになれば、幸いだ。

Valorant Closed Beta Begins In April

爆弾解除という伝統

この作品のルールを要約すると、つぎのようになる。これは、5対5で行われるファースト・パーソン・シューターである。試合の勝利条件は、13ラウンドを先取すること。ラウンドの勝利条件は3つあり、いずれかひとつを満たしたチームに得点が与えられる。ひとつめはもっともシンプルで、敵方のチームを全滅させることだ。

ふたつめは少しややこしいが、これがゲームに奥深さを与えている。時限式爆弾である「スパイク」をもちいた攻守の概念である。攻撃側のチームは、A、Bなどと呼称されるマップの地点に、この「スパイク」を設置し、設置から数十秒後に起こる爆破までそれを守りきれば、ラウンドを勝利して得点を得る。対して防衛側は、攻撃側によって設置された「スパイク」を解除すればただちに勝ちとなる(設置と解除の作業には、プレイヤーひとりの数秒間の時間を費やす必要がある)。

みっつめは、時間切れである。ラウンドごとにタイマーが設定されていて、これがゼロになると、自動的に防衛側の勝利となる。ただし時間切れよりも前に「スパイク」が設置された場合は、その「スパイク」が解除されるか、爆破されるか、あるいは攻撃側が守備側を全滅させるまで、ラウンド時間は延長される。

考えうるラウンド展開

このルールセットがあまりにも優れているのは、キルのみではない勝利条件――「オブジェクティブ」を設定することによって、ゲームの流動性を大いに促しているからだ。下図を参照してほしい。

ミニマップ俯瞰図。緑の守り手が赤の攻め手を待っている。攻めはスパイクを置くために、Bに入りたい。
ミニマップ俯瞰図。緑の守り手が赤の攻め手を待っている。攻めはスパイクを置くために、Bに入りたい。

まず前提として、このゲームにおける1対1の撃ち合いは、「待つ」ほうが強い。要因はふたつ。ひとつは、移動中の集弾率が低下すること。もうひとつは、エイムを「置いている」ところに入ってくる敵を撃つほうが、どこにいるのかわからない敵に照準を合わせて撃つよりも、よっぽど簡単であることだ。攻め側はチョーク(あるエリアにつづく狭い入り口。上図ではガーデンとB、フーカーとBを接続する地点など)を越えるたびに、右か左かのクリアリング(敵がいるかどうかを確認すること)の選択を強いられるが、守り側はどっしり構えて待っていればいい。したがって上図の戦いでは、かなりの確率で「守り」側が勝つ。

そこで、こんな仮定を置いてみよう。まったく同じレベルのエイムをもつふたつのチームがあるとする。攻撃側は、Bにむかってのみ進行すると、両チームともが知っている。この場合、勝つのはどちらか。

この場合も、かなりの確率で守備側が勝利するだろう。なぜなら、守備側はつぎのような配置を行えばよいからだ――

守備側はチョークポイント(ガーデン)へのクロスファイア陣形をとる。
守備側はチョークポイント(ガーデン)へのクロスファイア陣形をとる。

守備側が有利である要因はいくつかある。攻撃側はBにたどり着くために、自身の集弾率を犠牲にして前進しなければならない。また、攻撃側は守備側のチームがプレイしている場所を知ることができないが、守備側は攻撃側がどこから突入してくるのかわかっているので、その地点に照準を置いておけばよい。また、そうすることでクロスファイアが可能となり、コンマ数秒の時間だけ、5vs1の状態になる(したがって攻撃側はふたり以上が同時にピーク〔クリアリングあるいは交戦のために壁から身体を晒すこと〕するようにタイミングを合わせるだろうが、それでも後方のプレイヤーが銃を撃っていない時間は生まれる)。

しかし実際のルールセットにおいては、このような有利・不利の差は生まれない。守備側がさきほどの仮定におけるB5名の守備陣形をとったとして、攻撃側が「B」だけでなく「A」へも進行できるとする。つまり守備側が全員をBに配置しており、攻撃側がAにラッシュを仕掛けるのだ。すると――

 

攻守が逆転する。Aを確保した攻撃側は、「スパイク」を設置し、Aを「守り」はじめる。守備側は攻撃側に守られているAまで移動し、攻め落とさなければならない。しかし、先述したとおり、この作品のメカニクスにおいては、「待ち」を行っている側のほうが強い。趨勢は一気に、設置したスパイクを「守っている」攻撃側に傾く。

したがって、それなりに隙のないラウンド開始時の守備側の陣形はつぎのようなものになる――

 

こうした陣形においては、各々のプレイヤーが、それぞれの拠点において鳴り子のような役割を果たす。かりにBにむけて攻撃側が五名での「ラッシュ」をしかけた場合、Bを守っていたプレイヤーはキルをされないように安全に立ち回りつつ、ほかのプレイヤーに攻撃側の所在を知らせ、Aを守っているプレイヤーがB近くまで移動するのを待ってから、本格的に戦闘を開始する。そのあいだに、攻撃側はB地点を確保する。

B担当2名がやや撤退し、A担当がBへ集合する。
B担当2名がやや撤退し、A担当がBへ集合する。

これでもまだ、攻撃側がBを取ってしまうように見える。しかし先述した移動中の集弾率の低下と、突入地点が限られているという条件は、ラウンド開始直後の個別の会敵の瞬間においては、守り側にかなり有利に働く。一番目の図を思い出してほしい。また、武器の種類にもよるが、ほとんどの場合、このゲームにおける「ヘッドショット」は、一撃でのキルとなる。かりにBを守っていた鳴り子がラッシュされ、撤退しきれずにキルされてしまうとしても、教科書通りやれば、その無理なラッシュのあいだに2キルをもぎ取ることは比較的容易なのだ。

(スキルは考慮していないものの)より実戦に近いシナリオでは、小部屋とエルボー担当が多少のクロスファイアをする。エルボーが死亡、そのかわり小部屋が2キルを取る。
(スキルは考慮していないものの)より実戦に近いシナリオでは、小部屋とエルボー担当が多少のクロスファイアをする。エルボーが死亡、そのかわり小部屋が2キルを取る。

そうなれば3対4となり、有効な射線の量はFPSにおいてつねにアドバンテージだから、数秒後のスパイク解除のための拠点確保の戦いにおいて、守備側が有利になる。したがって、単純なAないしはBへのラッシュが、攻撃側の圧倒的な定石になるようなことはない――では、どうやって攻めるのか。シャワー室からAを突っついて揺動する? 連絡通路からフーカーを強襲する? あるいはチーム全員でスポーン地点に引きこもって、不信に思った守備側を誘い出す? それに対応する守備側の挙動も考え合わせれば、可能なゲームの展開は天文学的なものになる。

そういうわけでこのルールセットは、極上の心理戦の快感をプレイヤーに与えてくれる。Bラッシュをもうすこしマイルドにしたプランは、たとえばつぎのようなものになるだろう。攻撃側はBロングに3名を配置し、その後ろに2名を配置する。3名がピークし、守備側に威圧感を与える(アーリーゲームのためスナイパーライフルは存在しないものとする)。後ろの2名はバックアタックを警戒する。Bの鳴り子が3名を5名だと思い込み、Bラッシュを宣言する(誤報告の誘発)。

 

Bラッシュの報告を受けた守備側は、ミッドあるいはAの守りを手薄なものにする。これはラッシュへの考えうる対応である。

 

この定石の対応を読んで、攻撃側は自身のスポーン地点を経由してAへ移動する。

 

こうなれば、攻撃側はしめたものだ。あとは順当にAにスパイクを設置し、「防衛」すればよい。

しかしこのプランにしても、作戦ではあるが、つねに最善というわけではない。Bへのラッシュが宣言された時点で、Aを守っていたプレイヤーが、定石通り後方からBへと迂回するかどうかはわからない。A付近に敵がいないことを察知したA担当が、攻撃側本体の後ろをつくために敵方のリスポン地点への進行をはじめ、じわじわとピークしながら、どこかで「置きエイム」をしているかもしれない。あるいはそもそも、守備側が、相手の心理をまったくかき乱したいという理由だけで、ラウンド開始直後に、ミッドから攻撃側リスポンまで押してきているかもしれない。

作戦はおじゃんである。
作戦はおじゃんである。

チームプレイこそ本分

このように、綿密に練られたチームの連携、あるいはあるプレイヤーの純粋な気まぐれから、戦況の有利・不利がダイナミックに変動していくところに、このルールセットのおもしろさがある。テトリスにはまりすぎた人間が、寝床についてもまだ頭のなかでテトリスのパターンを視てしまうという話があるが、このルールセットにはそれと似たような中毒性がある。ある作戦を立案するときには、マップのなかのこまかな障害物や有効な射線の種類をひとつひとつ検討し、さまざまな可能性を熟慮していくわけだから、はまりこむとテトリスよりも厄介かもしれない。なんにせよ、チームの強さが単純なエイムの力で決まるわけではなく、むしろ連携のうちにあることは、なんとなくわかってもらえたと思う。

さらに言えば、かりにあるゲームの強さが単純なエイムの力で決まってしまうのなら、対人型であることの意味がない。ボット撃ちのスコアや反射神経のテスト結果は、ある程度の参考になりこそすれ、それが刻々と変化していく戦況にいかに対応するかという、選手としてもっとも重要な資質を測る物差しには決してならない。

ところで、本稿で挙げたようなルールセットの理解や、それに従って行われる作戦の立案などは、チームメイトとの盛んなコミュニケーションを前提とする。しかしながら、上記にした作戦の草案(これはじつに単純なもののはずだ)さえも、ソロでプレイするランクマッチでは実践不可能だ。

はっきり言ってしまおう。この作品に限ったことではないが、チーム・シューターにおけるランク・マッチは、たまたま同じ時間に同じ場所に居合わせた野良犬たちの闘争にすぎない。それが何か得体の知れない、「スキル・レーティング」などというものが賭けられた、「ガチ」的な何かだという建前があるぶん、より悪いくらいだ(あわてて断るが、もちろん、一対一のゲームはこの限りではない)。

〈マップのこの地点に彼あるいは彼女が立っているから、ここは安心してピークできる〉――この感覚が、いったいどれだけこのゲームを(そしてあらゆるチーム・シューターを)美しく、また興味深いものにしていることか。この信頼の感覚をぬきにしては、このジャンルはほとんど成り立たないとまで言ってよい。そして、その感覚を得るためには、やはり同じ人間とくりかえしゲームをプレイし、仲間たちの癖や能力を知り合うことが肝要だ。

だからこそ、チームを組むように勧める。ランクマッチはエイムの肩慣らしか、気分転換にとっておくくらいで丁度いい。あなたがどんな仲間と組み、どんな戦いをチームとして行うかに、このゲームの神髄がある。それに、チームをつくるのはそんなに大した仕事ではない。TwitterなりDiscordなりで呼びかけたり探したりすれば、案外すぐに人は集まる。

このおもしろさはVALORANTのオリジナルではないが……

さて、筆者は本稿の内容を『VALORANT』のオリジナル・ルールだと言わずに、ただ「ルールセット」とだけ言ってきた。その理由は、このルールセットが、じつは『VALORANT』の開発者たちによって発想されたものではないからだ。はっきり言っておかなければならない。ここまで本稿が解説してきたルールセットは、四半世紀にわたって愛され続けている名作、「Counter-Strike」シリーズのものだと言っても、まったく通じる。

いまのところ、数人の友人たちちともに、あまり高度な戦術をもちいて戦っているわけではない筆者にとって、『VALORANT』が与えてくれる喜びは、「Counter-Strike」シリーズが与えてくれる喜びと、ほとんど同一である。体感として、野球とソフトボールくらいの違いしかない。身も蓋もない言い方をすれば、この作品は、投げモノに種類が増えて「スキル」という名前がついた「Counter-Strike」なのだ。

しかし私は、「Counter-Strike」こそがこのルールセットを用いることのできる唯一神聖なゲームであり、『VALORANT』はたんなる図々しい剽窃である、などと言うつもりはまったくない。野球のルールがだれのものでもないように、このルールもだれのものでもないからだ。しかしながら、先達の存在を無視して『VALORANT』がまったくあたらしいルールセットを発想した、ということはとてもできないし、同じ理由で本作をたぐいまれな名作だと賞賛することもできない。いや、もちろんこのルールセットはとんでもない逸品なのだが、おそらく賞賛するべきは「Counter-Strike」でも、『VALORANT』でもない、四半世紀以上前にこのルールセットを組みあげた、無名の誰かなのだ。

それでも筆者は、この作品が発表されたこと自体は、とても喜ばしいと思う。このルールセットが現代に復権したことは、長く行方の知れなかった親友がふいに帰ってきたみたいに嬉しいことだ。ちょっと外見は変わったにせよ、それはチェスや将棋と同じくらい完成され洗練された、すべてのひとに遊ばれてしかるべきものだからだ。

(おそらくここで熟練のプレイヤーは、「このルールはCoDやR6Sでもプレイできるが、それでも『VALORANT』でなければならない理由は?」と質問するだろう。こたえて言うが、ない。強いて言えば運営がRiot Gamesで、国内選手がプロフェッショナルになれる道が比較的整備されやすいはずだ、というくらいのものだ。水を差すようだが、このルールセットにかつて触れたことのあるプレイヤーは、そんなにびっくりするような目新しさには出会わない。それが現時点での本作の弱点である。

それでもCoDやR6Sとの違いを挙げるなら、たとえば、ラウンドごとに使用する火器を購入するシステムになるだろう。生存したプレイヤーが前ラウンドから引き継いだ武器をチーム内で回したり、エコ・ラウンド〔チーム全体であまり高価な火器を購入せずに温存すること〕を実行したりするとき、単純なラウンドの取り合いだけにとどまらない大局観も必要になってくる。しかし、このシステムや戦略にしてみても、CS:GOから引き継がれたものだ。)

それに筆者はまだ、『VALORANT』がもっているほんとうのポテンシャルを知っているわけではない。熱心なプレイヤーたちによって、どのヒーローのどのスキルが、どんな発想によって組み合わされていくのか、いまから楽しみでならない。

そして、なんといっても、生き馬の目を抜くようなすばらしい戦術を編み出すのは、筆者のような老人ではなく、これからはじめてチームを組んで戦いはじめる若い選手たちなのだ。そういうわけで、もう一度言っておく――なんでもいい、誰とでもいいから、とにかく、いますぐチームを組んで、練習試合をするんだ。そのほうが、このゲームはぜったいにおもしろいぞ。

※本稿で試用したミニマップ図は、SytoaNN / しとあん @SytoaNN氏の作によるものです。ここにその旨を明記して謝意を表します。

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June 21, 2020 at 01:00PM
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