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カメラマンが見た羽生結弦の強さの秘密…史上最高のスケーターが紡ぐストーリー - スポーツ報知

 情報が溢れ、サービスや品質、技術といったものが均一化される現代を生きていくためには、企業も個人もファンをつけることが重要だと言われている。AI(人工知能)が台頭し、ヒトの価値が問い直される近い将来、その傾向が加速していくことは想像に難くない。そして、ファンを増やしていくためには、どうやらストーリーが一つのカギになるらしい。

 会員数が6万人を超える国内最大のオンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」を運営するお笑いコンビ「キングコング」の西野亮廣氏は言う。「毎日(オンラインサロンの)入会者と退会者が数字で出るけど、僕のビジネスがうまくいっているときは、入会者は別に増えない。うまくいこうが失敗しようが、挑戦しているときは入会者は増え、退会者が減る」。

 挑戦がストーリーを生み、人の心を掴む。目標に向かって挑戦を続けるアスリートを多くのファンが応援するというのは、自然な感情の流れだ。その中でも、困難やケガを克服して五輪2連覇を達成し、今なお新しい技術の習得と理想のフィギュアスケートを追及する羽生結弦は、とりわけストーリー性の強いアスリートと言えるだろう。

 昨年12月、ぼくはカメラマンとしてイタリア・トリノで開催されたグランプリファイナルを取材した。ショートプログラム(SP)で最後の連続トウループが4回転の単発となった羽生は2位発進。首位のネーサン・チェンに12・95点の差をつけられた。その翌日の公式練習で羽生が見せた挑戦は、読み解くのが難しいストーリーだった。

 ウォーミングアップを終えて上着を脱ぐと、羽生はいきなり半袖になった。いつもは黒い長袖…。何かが起こる違和感があった。アクセルの踏み切りで数回高さを確認すると、いよいよ雰囲気が変わった。鋭い視線の羽生が助走を始める。これまで見たアクセルと比べて、高さも飛距離も違う。着氷できなかった羽生の体は、固い氷に激しく叩きつけられた。試合の公式練習で初めて挑んだクワッドアクセル(4回転半ジャンプ、4A)だった。

 4Aは羽生が習得を目指している、世界で成功例がない超高難度ジャンプ。翌日のフリープログラム(FP)で跳ぶ予定はなかった。疲労や怪我のリスクを考えれば、その場で4Aを練習する意味を探すのは難しかった。

 「正直に言うとSP後は割と絶望していた」という羽生が、大会一夜明けの会見で話した心の内はこうだった。「13点差っていうのは、まあ…ジャンプ1本4回転にしたからっていって、縮まるものではないっていうことも分かっていましたし。彼自身(チェン)も(4回転を)5回跳んでくるんだろうということは、すごく分かっていましたし。そんなプレッシャーでは絶対潰れないっていう強さもすごく感じてはいたので、まあ、やっぱり難しいだろうなあという感じはありました。だからこそ、やっぱここで何か爪痕を残したいっていう気持ちがあって」。

 それは自分を鼓舞するための、理屈ではない挑戦だった。羽生のすごさは、他者だけではなく、自分自身に対しても本気の物語を紡げるところだ。誰よりも自分を応援したい自分でいられるように、挑戦を繰り返す。だから、逆境でも自分を奮い立たせて、立ち上がることができる。

 選んだ道は険しい。自分に嘘はつけない。自分に向けられた物語は、脚色することができない。羽生は練習でも試合と同じようなテンションでリンクに向かう。イヤホンで音楽を聴いて気持ちを高め、エッジカバーを額に当てて集中力を高める。高難度のジャンプも表現の一部と考え、音楽と調和させて美しく跳ぶことにこだわり続ける。それがどんなに困難でも、自分の理想を追うことをやめない。

 しんどいだろうな、と思う。でも、自分に誠実だからこそ、彼の氷上での所作は、すべてが透き通っていて美しい。だからこそ、彼の言葉は真っ直ぐ心に届く。ぼくがフィギュアスケートを本格的に撮り始めて、まだ1年に満たない。正直に言えば、今だって分からないことばかりだ。でも、ぼくが羽生を好きになるのに時間はかからなかった。

 羽生にとって、今季は決して順風満帆なシーズンではなかった。終盤、勝てない時期が続いた。最終戦となった2月の四大陸選手権(韓国・ソウル)で、プログラムを平昌五輪で使用したSP「バラード第1番」、FP「SEIMEI」に変更した。羽生らしさを取り戻すための決断だったが、代表作を再び演じれば、どうしても過去の自分と比べられる。恐怖も重圧もある。前に踏み出す背中を押してくれたのは、信念を積み重ねてきた自分だった。

 迎えたSPで世界最高得点を更新。「曲に気持ちをすごく乗せることができて、なんかフィギュスケートって楽しいなって思いながら滑ることができました」。重圧の中でも自分を信じて無心で音楽に入り込めた。自分の理想に沿った物語を丁寧に作り上げてきた羽生の真骨頂だった。

 初優勝の表彰台の真ん中で、羽生は人差し指を突き上げて飛び切りの笑顔を見せた。男子で初めて、ジュニアとシニアの全主要国際大会を制する「スーパースラム」の金字塔。背後の漆黒には、挑戦の数だけ目には見えないたくさんの物語がある。それらは、真っ暗な夜空のような今だからこそ、眩さを増す物語。限界の先へと続く、羽生結弦のストーリーだ。(記者コラム・矢口 亨)

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May 28, 2020 at 06:00AM
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