Search

小説・Exit 第29回「追跡」:日経ビジネス電子版 - 日経ビジネス電子版

全6198文字

前回までのあらすじ

月刊誌記者の池内貴弘はかつての女友達の自殺の背景を取材するうち、金融コンサルタントの古賀遼と出会い、日本の金融の異常な状況を知る。編集長の小松勝雄は古賀を政財界の掃除屋だと言い、池内に取材を命じる。だが池内は古賀が悪人だとは思えず、戸惑いを感じていた。

前回を読むには、こちらをクリックしてください

(7)

 〈ちょっと待ってくださいよ〉

 薄い障子戸を隔てて、廊下の隅から池内のくぐもった声が聞こえる。1人になった小さな座敷で古賀は緑茶を飲み干した。

 ほんの1分前、池内に電話が入った。覗くつもりは毛頭なかったが、スマホのディスプレーには〈河田雄二〉の名前と携帯番号が点滅した。池内は礼儀正しい青年だ。古賀を差し置いて電話に反応するということは、重要な相手を意味する。

 古賀は目を閉じ、記憶を辿る。すると、月刊言論構想や他の週刊経済誌の特集ページ、そして新書の表紙がいくつも浮かんだ。

 河田雄二……丸顔で団子鼻、無精髭がトレードマークのフリージャーナリストだ。さらに頭の中のページを遡る。以前は帝都通信社の経済部に在籍し、日銀の公定歩合の変更、大手銀行同士の合併や自動車業界の再編劇など数々のスクープをモノにした大ベテランだ。民放のニュース番組で解説を加えることもあった。

 営業部から編集部に異動し、いきなり経済担当を任されたと池内は言った。どのような付き合いかは知らないが、言論構想から何冊も硬派なノンフィクションを刊行している河田だ。池内と以前から知り合いだったとしても不思議はない。

 〈新時代の最新号……〉

 再度、池内の低い声が廊下から漏れ聞こえた瞬間、合点がいった。同時に、ヘルマン・アセットの大林の顔が浮かぶ。

 〈奴らがたった1回で報道をやめるはずがない、俺はそう睨んでいる〉

 不機嫌な磯田の嗄れ声も耳の奥で響く。

 大林、磯田が気にしていたように、フリーの大物記者も新時代の続報を気にかけている、そう考えるのが妥当だ。

 〈ですから、俺の立場でなにも言えないのはご存知でしょう〉

 池内の声に力がこもり始めた。老練な記者が矢継ぎ早に尋ねているのだ。

日経ビジネス2020年4月27日号 56~59ページより目次

Let's block ads! (Why?)



"ちょっと待って" - Google ニュース
April 23, 2020 at 10:00PM
https://ift.tt/2VXAdM6

小説・Exit 第29回「追跡」:日経ビジネス電子版 - 日経ビジネス電子版
"ちょっと待って" - Google ニュース
https://ift.tt/2Rajcf1
Shoes Man Tutorial
Pos News Update
Meme Update
Korean Entertainment News
Japan News Update

Bagikan Berita Ini

0 Response to "小説・Exit 第29回「追跡」:日経ビジネス電子版 - 日経ビジネス電子版"

Post a Comment

Powered by Blogger.